会社を引き継いでくれる人がいない。M&Aが好調だ。昨今、そんな話題をよくニュースで目にしますが、実際はどうなのか。帝国データバンク(TDB)・東京商工リサーチ(TSR)・中小企業庁の最新公表データを並べて、**事業承継の「現在地」**を司法書士の視点から整理していこうと思います。数字が示しているのは、「動くべきタイミング」が確実に近づいているという事実です。
結論:統計が語る「3つの現在地」
最新の公表データを総合すると、いま日本の中小企業に起きていることは次の3点に集約できます。
統計が示す3つの現在地
- 後継者不在率は「規模で二極化」している ― 大企業・中堅は改善、零細・地方は深刻
- M&A件数は2年連続で過去最多を更新 ― 第三者承継が標準ルートになりつつある
- 休廃業は過去最多、後継者難倒産も最多更新 ― 「動けないまま時間切れ」が現実化
順を追って、最新の数字を見ていきましょう。
1. 後継者不在率 ― 「改善」と「深刻化」が同時に起きている
事業承継の議論で必ず登場するのが「後継者不在率」です。ところが調査機関によって数値が大きく違うため、読み方に注意が必要です。
TDBとTSRで20ポイント以上の差
最新の公表値はこちらです。
| 調査機関 | 全国不在率 | 公表日 | 調査対象 |
|---|---|---|---|
| 帝国データバンク(TDB) | 50.1% | 2025年11月21日 | 約27万社 |
| 東京商工リサーチ(TSR) | 62.60% | 2025年11月10日 | 16万9,136社 |
同じ「後継者不在率」でも、20ポイント以上の開きがあります。これは母集団の違いから生じています。TDBは比較的規模の大きい企業を多く含むのに対し、TSRは零細企業まで広く捕捉しています。つまり、
- ==TDBの50.1%は「規模のある会社」での改善傾向==
- ==TSRの62.60%は「零細層も含めた現実」==
を示している、と読むのが正確です。どちらが正しいかではなく、両方とも事実です。
7年連続改善 vs 過去最高水準 ― なぜ方向感が逆なのか
さらに興味深いのは、推移の方向すら逆だという点です。
| 年 | TDB(全国) | TSR(全国) |
|---|---|---|
| 2023年 | 53.9% | 61.09% |
| 2024年 | 52.1% | 62.15% |
| 2025年 | 50.1%(7年連続改善) | 62.60%(過去最高水準) |
TDBは「7年連続で改善・初の5割割れ目前」、TSRは「年々上昇・過去最高更新」と、まったく反対のストーリーになっています。
ここから読み取れるのは、規模・地域・業種による格差が広がっているという現実です。M&A仲介や事業承継支援機関にアクセスできる規模の企業では承継先が見つかりやすくなる一方、地方の零細事業者は依然として後継者を見つけられないでいる――この二極化が、両方の数値の正体です。
地域別 ― 神奈川県76.00%という現実
地域別のデータを見ると、首都圏でも格差が際立ちます。
TDB 2025年(規模のある企業層):
- 三重県 33.9%(5年連続最低・最も改善)
- 秋田県 73.7%(2年連続最高)
- 東京都 47.9%(前年比-3.2pt、過去最低、初の5割割れ、8年連続改善)
TSR 2025年(零細層含む):
- 神奈川県 76.00%(全国最高)
- 東京都 72.24%
- 60%超は23都道府県に拡大
町田・多摩エリアは、商圏的に東京都と神奈川県の両方の影響を受ける地域です。「東京都47.9%」の改善トレンドと、「神奈川県76.00%」の深刻さを、同じ商圏内で見ることになります。地理的には東京、生活圏としては相模原・大和・横浜北部とも接続する町田は、この二極化の縮図のような地域といえます。
「非同族承継」が初の4割超え ― 静かな構造変化
もうひとつ、2025年調査で見過ごせない変化があります。後継者属性の構成比です。
後継者属性の構成比(TDB 2025)
- 非同族 41.0%(前年比+1.7pt、初の4割超)
- 子ども 29.7%
- 親族 24.6%
- その他同族 4.7%
「親族で継ぐ」が当たり前だった時代から、「血縁外の役員・従業員、あるいは外部から後継者を迎える」ケースが着実に広がりつつあります。
司法書士の実務でも、この変化は明確に感じられます。親族外承継では、株式譲渡・種類株式の設計・遺言や信託による承継ルートの設計といった「事前の設計図」が不可欠だからです。「とりあえず長男に」では済まなくなっているのが、いまの事業承継の姿です。
2. M&A・第三者承継 ― 3年連続で過去最多
「親族で継げないなら、誰が継ぐのか」――その答えのひとつが、第三者承継、つまりM&Aです。
件数は過去最多を毎年更新
最新の公表データを並べると、市場の拡大ぶりがよくわかります。
| 年 | レコフ集計(M&A件数) | 事業承継・引継ぎ支援センター(成約数) |
|---|---|---|
| 2022年 | 4,304件 | 1,681件 |
| 2023年 | 4,015件 | 2,023件(前年比+20%) |
| 2024年 | 4,700件(過去最多) | 2,132件(過去最高) |
| 2025年 | 5,115件(過去最多) | ― |
レコフ集計の5,115件は公表ベース中心であり、未公表の中小M&Aを含めると実件数はこの数倍に上るとされています。
加えて近年は、M&A仲介事業者の参入が相次いでいることも背景にあります。中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」(2021年創設)には、いまや3,000件を超える事業者が登録されており、これまで水面下で行われていた中小M&Aが可視化されつつあります。「件数が増えた」のは、実態の増加と捕捉力の向上の両方が重なった結果と読むのが正確でしょう。
「無料相談窓口」と「専門家関与」の関係
事業承継・引継ぎ支援センターは、各都道府県に設置されている国の無料相談窓口です。令和6年度(2024年度)の第三者承継成約は2,132件と、過去最高を更新しました。
ただし注意したいのは、支援センターは「マッチング」までで、その後の手続きは専門家の領域だという点です。株式譲渡が成立した後には、たとえば次のような実務が発生します。
会社内部の手続き(登記対象ではないが必須):
- 株主名簿の整備・名義書換
- 株主総会・取締役会の議事録作成
- 定款の見直し(譲渡制限・種類株式設計など)
法務局への商業登記申請:
- 役員変更登記(取締役・代表取締役の交代)
- 必要に応じて本店移転・商号変更・目的変更
- 組織再編(合併・会社分割など)に伴う各種登記
株主名簿の名義書換は会社が管理する内部手続きであり、登記の対象ではありません。一方、役員変更や組織再編は法務局への登記申請が必要です。両者は性質が違いますが、どちらも事業承継・M&A実務では欠かせません。M&A件数の拡大は、これら会社法務の実務需要が構造的に増えていることを意味しています。
3. 休廃業・解散 ― 過去最多6.9万件、平均71.3歳
第三者承継が広がる一方で、「継ぎ手が見つからないまま、店を閉じる」事業者も増えています。
件数は過去最多
| 調査機関 | 2024年休廃業・解散件数 | 前年比 |
|---|---|---|
| TDB | 69,019件 | +9,914件(+16.8%) |
| TSR | 62,695件(初の6万件超) | 過去最多 |
TDBは現行基準(2016年〜)で、TSRは調査開始(2000年〜)以来の最多件数です。
経営者年齢は平均71.3歳、80代以上が23.7%
廃業を選んだ経営者の年齢構成は、想像以上に高齢化が進んでいます。
廃業時の経営者年齢(TDB 2024)
- 平均年齢 71.3歳(調査開始以降最高齢)
- 70代 39.5%
- 80代以上 23.7%(前年比+2pt)
- 70代以上で約6割
「平均が71.3歳」ということは、80歳を超えてもなお現役で経営を続け、ようやく廃業を決断した経営者が相当数いるということです。
「黒字廃業」が約半数 ― 後継者不在の象徴
さらに衝撃的なのは、廃業企業の約半数が直前期に赤字ではなかったという事実です(TSR集計)。
- 直前期決算で赤字企業率:48.5%(裏返せば51.5%は赤字でない)
- 消失売上高:2兆9,493億円
- 累計雇用喪失:87,003人(正社員、2016年以降最多)
==赤字だから畳むのではなく、継ぎ手がいないから畳む==――これが、今起きている廃業の実態です。
後継者難倒産 ― 5年連続400件台、過去最多更新
廃業ではなく「倒産」に至るケースも増えています。
TSR集計:後継者難倒産の件数
- 2024年度:462件
- 2025年度(4月-3月):461件(過去最多)
- 5年連続で400件台
注目すべきは倒産の原因です。
| 原因 | 件数 | 構成比 |
|---|---|---|
| 代表者の死亡 | 219件 | 47.5% |
| 代表者の体調不良 | 172件 | 37.3% |
| 両者合計 | 391件 | 84.8% |
==「死亡」と「体調不良」だけで84.8%==。これは、「動こうと思っていたが、間に合わなかった」経営者がほとんどだということを意味します。
4. 「2025年問題」の現在地
ここで、政府が長年警鐘を鳴らしてきた**「2025年問題」**を改めて整理しておきます。
2025年問題のおさらい(中小企業庁試算)
- 2025年までに、70歳超の中小企業経営者は 約245万人
- うち 約半数(127万人)が後継者未定
- これは日本企業全体の 約1/3 に相当する規模
そして2026年現在、私たちはまさにこの「2025年」を通過した直後にいます。127万社が後継者未定のまま2025年を迎えた事実は、変わりません。
社長の平均年齢は34年連続で上昇し、2024年時点で 60.7歳。平均引退年齢は 68.6歳 で高止まり。後継者難倒産時の社長平均は 69.8歳 ――これらの数字を重ねると、今後5〜10年が「相続発生による強制承継・強制清算」のピークになることが、統計上ほぼ確実に予測できます。
5. 統計から読み解く「動くべきタイミング」
ここまでの数字を、司法書士の視点から整理し直すと、3つの示唆が浮かび上がります。
示唆①:親族外承継の準備は「特殊」ではなく「標準」へ
非同族承継が41.0%に達した以上、「親族で継げるかどうか」を起点に考える時代は終わりつつあります。
第三者承継や親族外承継では、親族内で完結する場合と比べて、事業承継の手法をあらかじめ設計しておくことの重要性が増します。株式や経営権をどう引き継ぐか、不測の事態にどう備えるか――こうした論点を、自社の状況に合わせて専門家とともに整理しておく姿勢が、いまや親族承継の場合でも「念のため」用意しておく価値のあるものになっています。
示唆②:黒字廃業を避けるには「5〜10年前」から動く
廃業企業の51.5%が黒字だったという事実は、「もう少し早く動いていれば」という後悔の集合体でもあります。
事業承継の準備は、一般的に5〜10年の時間軸で計画します。後継者の育成、株式の移動、取引先・金融機関との関係構築――どれも一朝一夕には完了しないからです。「平均引退年齢68.6歳」から逆算すると、60歳前後から準備に着手するのが現実的なラインといえます。
示唆③:突然のリスクは想像以上に高い
後継者難倒産の84.8%が「死亡・体調不良」を原因としている事実は、衝撃的です。
==事業承継は、健康なうちにしか設計できません。==
「あと数年したら考える」と先送りしているうちに、突然倒れたり亡くなったりすれば、相続による強制承継となり、株式が分散し、経営判断が滞り、最悪の場合は会社そのものが立ち行かなくなります。
では、何から始めればいいのか
「具体的に何から手を付ければいいのか」という方は、まず事業承継、何から始めればいい?初動5ステップをご覧ください。司法書士が現場の経験から整理した、最初の5ステップを順を追って解説しています。
なかでも、**最初に整えるべきは「株主名簿」**です。誰が株主かが曖昧なままでは、承継の設計図を引くことすらできません。詳しくは株主名簿の整備から始める事業承継をご参照ください。
まとめ ― 統計は「遅らせるほど選択肢が減る」と語っている
今回見てきた数字を一言でまとめると、こうなります。
統計が語る本質
- 後継者不在率は「規模で二極化」。零細・地方ほど深刻
- 第三者承継(M&A)は標準ルート化。市場は3年連続最多更新
- 廃業は過去最多、しかも約半数は黒字。後継者難倒産は死亡・体調不良が84.8%
- 2025年問題は終わっていない。これからが「強制承継」のピーク
==事業承継は、遅らせるほど選択肢が減る世界です。== 統計はそれをはっきりと示しています。
司法書士法人まちたまでは、町田・多摩エリアを中心に、株主名簿の整備・登記関連の事前準備・遺言や信託を活用した承継設計のご相談を承っています。事務所への来所のほか、オンラインでのご相談にも対応していますので、お気軽にお問い合わせください。
出典(一次情報)
帝国データバンク(TDB)
- 全国「後継者不在率」動向調査(2025年)(2025年11月21日公表)
- 全国企業「休廃業・解散」動向調査(2024年)
- 後継者難倒産の動向調査(2024年度)
東京商工リサーチ(TSR)
- 「後継者不在」年々上昇し62.60%に(2025年11月10日公表)
- 2024年「休廃業・解散」過去最多6.26万件
- 2025年度「後継者難」倒産過去最多461件(2026年4月8日公表)
公的機関
※本記事の統計値は、各機関が2025年〜2026年に公表した最新値に基づきます。事業承継の制度や統計は毎年更新されるため、最新情報は各情報源をご確認ください。